粘りのある黒

日、写真仲間の某氏のマンションで新年会を開いた際に、写真家の山本学さんから一枚の写真をいただいた。それはそこに8人程度のメンバーがいたが殆どの人に配られた。写真は神社の新馬が馬の厩舎から首を出している写真だ。バライタ印画紙で丁寧に焼かれ、写真の裏には山本氏のサイン入りだった。

戴いた写真を観て、最初は馬の生首が宙に浮いているかのように見えた。よく見ると馬が暗がりの厩舎から首だけを外に曲げて出しており、あたかも暗闇から馬の首だけが宙に浮かんでいる。そんな奇妙なモノクロ写真だった。
一見、須田一政の様な生物をマジックで不思議に見せる写真は、僕にインパクトを与えた。午年だから馬を撮ったという事もあるが、こういう写真視点は面白い。家に帰ってから白熱球の下で見ると真っ暗の闇かと思われた厩舎の奥もうっすらと壁が見える。普通はこういう黒の部分は、ベタッと真っ黒になってしまうがよくよく見てみるとうっすらと壁の線らしきも見える。

以前、山本氏が「粘りのある黒が欲しい」と僕の写真を観て言っていた事があり、意味が解らなかったので「粘りのある黒って、どいういう意味ですか?」と訪ねた所、「うっすらと見える様な黒」と答えを頂いた。うっすらと・・という意味を考えてみてもピンとこなかったが、この写真を見て確信できた。写真とはそこにある現実を写すものであり、どんなに暗くても何かが写っていることは確かであり、「暗いから黒」ではなくて「暗くても真っ黒ではない」事を前提にその暗闇に写されているネガの奥の背景までも出すべきなのだと(出すかどうかは写真家の考え方次第の部分もあるが)。
暗室経験のある方なら、理解できるだろうが実は暗室プリントで一番難儀するのはコントラストの差が極端にある写真だ。コントラストが高いと影に潜んでいる闇の奥の背景をじっくりと出すには、秒数を微妙に変化させながら出すコツが要る。

もしくは、それを考えた上でネガを作るか、現場で露出を合わせてしまうかだ。何れにしてもこれを暗室で、しかもバライタで焼こうとすると結構な気合いがいるはず。それを山本氏はサラッと皆に配布して涼しげな顔で談笑していた。
モノクロ写真は白の黒のトーンの綺麗さだけを考えていたものの、粘りのある黒も表現させる美しさがあることを改めて知った。そして何よりも人のバライタ写真を手にするこという事は、その写真が如何に良い写真かどうかを判断することができる。
少し、ギャラリーで写真を買いたくなってしまった・・。


Richo GR F4.0 SS 1/40 ISO280


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